所長インタビュー
AIMRのさらなる発展を目指して

2020年01月27日

2019年にAIMR所長に就任した折茂慎一教授が将来ビジョンを語った

折茂所長は、人類が直面する社会問題について材料科学の視点から様々な解決策を提示したいと考えている。

2019年10月、折茂慎一教授が東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の所長に就任した。2012年から機構長(所長)を務めた小谷元子教授の後任として、AIMRの12年の歴史の中で3代目の所長という重責を担う。「小谷教授の指揮の下、AIMRの研究者は多くの傑出した成果をあげてきました」と折茂所長は言う。「こうした質の高い研究により、AIMRは世界的に知られるようになりました」。

折茂教授は、AIMR所長に就任する以前より数年にわたりAIMRとのつながりを深めてきた。AIMRからほど近い金属材料研究所で研究室を主宰し、燃料電池や全固体二次電池などのエネルギーデバイスの観点で水素機能性材料の研究開発に取り組んできており、その中でAIMRのメンバーと広く共同研究を進めている。「AIMRのデバイス・システムグループのリーダーとして多くの共同研究プロジェクトに参加し、メンバーとの連携を強めてきました」と折茂所長は言う。

数学-材料科学連携の継続

折茂所長は、学際性を重視する数学-材料科学連携を今後も続けていきたいと考えている。「このアプローチの価値は十分に証明されました。今後は、これまでの数学-材料科学連携をさらに発展させて、新たな材料創製につなげることを目指します」。

折茂所長は、自らの研究課題を通して、数学が材料科学に与える示唆の重要性を強く認識してきた。「物質中のイオンの運動性を調べるためには分子動力学計算などが広く用いられています。AIMRでは、より本質的な理解に繋げるために、数学的視点により『運動性に関するランダムネス』の中からの『構造の特徴』を探る研究も進めています」と説明する。これは学際性のほんの一例にすぎない。「私たちが真に関心を持っているのは、双方向研究、つまり材料科学に数学を適用するとともに、数学にも材料科学を適用することです」。

著名な数学者でAIMRの数学連携グループのリーダーでもある水藤寛教授が新たにAIMR副所長に任命されたことで、数学と材料科学はより固く結ばれた。

数学と材料科学をつなぐもう一つのパイプとして、三つの発展ターゲットプロジェクト(Advanced Target Project :ATP)も設けられた。トポロジカル機能性材料の局所構造制御、結合多様性とその時間発展の統合制御、自己組織化の高度化と応答制御の三つである。折茂所長は、「この三つのプロジェクトは、従来の研究で得られた知見や手法を継承するだけでなく、より材料創製に適用しやすい数学を加え発展させるものです」と説明する。これらのATPは、それぞれミクロ、メソ、マクロスケールの現象を対象としているという。「AIMRの材料科学は、物質・材料の最小単位である原子・分子の完全な理解とその制御を基盤とした材料創製を究極の目標としています。ATPではこの目標を達成するため、原子・分子からなるミクロスケールの理解と、それらの精密な制御を、メソ、マクロスケールまで一貫してつなぎ、新しい機能を発現する材料創製を目指します」。

国際共同研究の促進

さらに、AIMRが長年重視してきたことに、海外の研究者や研究機関との関係強化を通してグローバルな展望を持つことがある。これまで、海外の研究機関とのジョイントラボを三ヵ所設置しており、ケンブリッジ大学(英)とは非平衡材料と計算材料科学、シカゴ大学(米)とはスピントロニクス、清華大学(中国)とはトポロジカル材料に、それぞれ重点を置いている。折茂所長はこうした国際連携を継続したいと考えている。「今後は特にスイスやフランスの大学や研究機関との交流関係を発展させる予定です」。

産学連携の強化

折茂所長は、AIMRと産業界との連携をさらに深めることに意欲を示している。

AIMRは、研究成果の産業応用においても優れた実績を持つ。折茂所長自身、素材・電気・自動車業界などのさまざまな企業との共同研究実績を有し、産業界との連携に精通している。現在、産学間の研究プラットフォームづくりなども進めている。「学内の産学連携組織とも協力して、産業界との連携をさらに深めたいと考えています」と折茂所長。「社会に貢献する材料を創製するためには、産業界との連携が不可欠です」。

「三つのR」の重視

就任にあたって展望を語る際、折茂所長は「Relief」、「Research」、「Recognition」という「三つのR」を挙げた。一つ目のReliefは、AIMRの全てのメンバーの安全および福利厚生を優先するのはもちろんのこと、メンタル面も含めた取り組みを重視する指針である。二つ目のResearchは、研究の最先端を走り続ける上での心構えで、折茂所長はそれを「最先端とは崖でもある」と説明する。「私たちはまさに研究領域の最先端、つまりエッジにいるわけですが、それは同時に崖っぷちにもいることを意味します。この事実を常に意識し、緊張感を持つことが非常に大切です」。三つ目のRecognitionは、研究成果を積極的に発信し、AIMRが国内外で今まで以上に必要とされるようになることを意味する。

折茂所長は、「材料科学と数学との連携を強化するとともに、最先端計測も取り入れることで、新たな材料創製を進め、世界トップレベルの材料科学研究機関であるAIMRをさらなる高みへと引き上げたいと思います」と言う。「メンバーと協力して、人類が直面する社会問題について材料科学の視点から様々な解決策を提示したいと考えています」。