機構長インタビュー
新機構長、新たな展望

2012年06月25日

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)は、文部科学省「世界トップレベル研究拠点(WPI)」プログラムの研究拠点の一つとして2007年に設立された。2012年4月、設立から6年目に入ったAIMRは、有機化学者の山本嘉則初代機構長の後任として数学者の小谷元子教授を新機構長に迎えた。

WPIプログラムは文部科学省の事業であり、日本学術振興会が業務を委託されている。AIMRは、最初のWPI研究拠点の1つとして2007年に設立され、それからわずか数年で日本を代表する材料科学研究機関としての地位を確立し、その国際的な評価も高めている。現在、設立から6年目に入ったAIMRは、数学的アプローチを取り入れた材料科学研究というユニークかつ野心的な取り組みを通じて、新たな発展段階を迎えようとしている。数学者として国際的に名高い小谷元子新機構長が、AIMRのこれまでの成果と将来の展望について、AIMResearchのインタビューに答える。

小谷元子AIMR機構長
小谷元子AIMR機構長

AIMResearch:AIMRは先日、5回目の設立記念日を迎えました。新機構長として、これからの5年間AIMRをどのように発展させたいとお考えですか?

AIMRの研究者は、材料科学の広範な分野で世界レベルの刺激的な研究成果をあげてきました。東北大学の材料科学は長く輝かしい歴史をもっています。その基盤を背景に、AIMRはバルク金属ガラスとスピントロニクスの分野にブレークスルーをもたらし、またナノポーラス材料とMEMS技術の分野でも新領域を開拓しました。AIMRはさらに、このような成果を土台として、新たなレベルへ飛躍しようとしています。この過程で中心的な役割を果たすことになるのが、最近設立された数学ユニットです。これまで、AIMRでは個々の研究グループが、それぞれの得意分野において新しい材料の発見に注力し大きな成功をおさめてきました。今後は融合研究をこれまで以上に発展させて、材料の根源的な理解に基づいた新しい科学的原理を発見していきたいと考えています。数学を使って複雑な現象を単純化し統一的な形式を与えることにより、材料科学研究に役立てようというわけです。

AIMResearch:AIMRでの研究に数学の利用を増やしていくということですが、具体的には数学と材料科学をどのように統合しようとしているのでしょうか?

材料科学と数学を融合するというアイディアは、ユニークで野心的なものです。まずは数学的なアプローチの対象を、最近の研究成果があがっている3種類のターゲット材料に限定して集中的に研究を進める予定です。具体的には、「数学的力学系理論に基づく非平衡材料」、「トポロジカル機能性材料」、「離散幾何解析に基づくマルチスケール階層性材料」の3種類です。とはいえ、いずれも広範にわたるテーマなので、全体を極めるにはかなりの時間を要するでしょう。そこで、私たちはいくつかの研究グループを立ち上げ、それぞれのテーマについて短期的、中期的、長期的な目標を定めました。手ごたえのある進展が見られるまでには5年、10年、あるいはもっと長くかかることもあるでしょう。

AIMResearch:AIMRの目標の1つに、世界レベルの「目に見える研究拠点」になる、というものがあります。この目標はどの程度まで達成できたと思われますか?世界におけるAIMRの存在感をさらに高めるためには、どうすればよいでしょうか?

国際的に目に見える研究拠点になることは、WPIプログラムのすべての研究拠点に共通する目標です。この点については、AIMRは健闘していると思います。日本学術振興会が行った調査によると、WPIプログラムと各研究拠点の知名度が高まっていることがわかりました。引用分析からは、被引用回数が上位1%に入っている論文の割合について、世界の主要研究機関のなかでWPI研究拠点が第2位の位置にあることも明らかになりました。WPI研究拠点のこの実績に対して、AIMRは大きく貢献しています。AIMRがトップレベルの国際学術誌に発表する論文の多くが、高引用されているからです。また、数学を重視した材料研究の新しいターゲットとして前述の3種類の材料を選定する際、AIMRは海外の協力者に呼びかけを行いました。すると、短い応募期間しか設けていなかったにもかかわらず、AIMRとの共同研究を希望する海外の科学者たちから非常に良い反応があったのです。AIMRには、ケンブリッジ大学、カリフォルニア大学サンタバーバラ校、中国科学院という3つのサテライト機関を含めて、22の海外連携機関があります。私たちは、サテライト機関と合同研究室を設立しようとしているところです。また、国際的な共同研究を増やし、さらに多くの国々に我々の仲間が広がるように、サテライト機関を増やしていく予定です。

AIMResearch:全部で6カ所あるWPIの研究拠点のうち、AIMRは外国人研究員の割合が最も高いですね。成功の秘訣は何だったのでしょうか?

AIMRのPI(主任研究者)の全員が国際的な舞台で精力的に活動していることが、世界の人々を機構の研究に注目させることにつながっています。もう1つの要因は、東北大学が伝統的に材料科学に強いことです。どちらの要因も、優秀な博士課程学生やポスドク研究者をAIMRに引きつけることに大いに寄与しています。私たちは、先見の明をもって、海外の優秀な科学者をAIMRの研究に迎え入れています。このことが、さらに多くの外国人学生を引きつけることにつながっているのです。AIMRの外国人PIには3種類の活動形態があります。1つ目は、日本に住み、日本を主要な研究基地とする形です。2つ目は、海外の研究室を維持しつつAIMRにも研究室を立ち上げて運営する形です。3つ目は、海外の連携機関に研究室を置き、ポスドク研究者をAIMRとの共同プロジェクトに派遣することで、2つの研究機関のかけ橋とする形です。海外PIは、通常は1年に数回来日し、日本人PIと共同プロジェクトの進捗状況について議論します。AIMRのサテライト拠点の合同研究室は、日本のAIMRと外国の連携機関との研究交流を促進する上で重要な役割を果たします。

2012年4月、AIMRは設立から6年目に入った。
 
2012年4月、AIMRは設立から6年目に入った。
 

AIMResearch:WPIプログラムの目標の1つに、研究拠点のホスト機関のアカデミックな文化を変えることがあります。この点で、AIMRは東北大学にどのような影響を及ぼしてきましたか?

東北大学は、AIMRが研究推進のために特別な取り組みを行うことを理解しています。私たちは東北大学から、AIMRの目的達成に適した研究や組織運営をする自由を認められて、数々の先駆的な試みを行っています。具体的には、成果主義給与制を採用し、スタッフが複数機関に所属することを認め(日本の研究機関としては珍しいことです)、またスタッフや学生の研究面および精神面の支援をより柔軟かつニーズに合ったものにするために、独自の取り組みを行ったりしています。AIMRのこうした試みから得られた知識が、東北大学全体の運営にどのように活かされるのか、見守ってゆきたいと思っています。私たちは東北大学に、AIMRで培った経験に関する詳細な情報を盛り込んだ調査書類を提供することになっています。これまでの5年間にAIMRで確立された先駆的な取り組みやプロトコルの多くが、東北大学のほかの部局、例えば、災害制御研究センターや、最近設立された東北メディカル・メガバンク機構などで採用されることになるでしょう。私たちは、AIMRの活動が、日本の大学システムだけでなく、材料科学分野の全体に大きな影響を及ぼすようになることを期待しています。