国際ワークショップ
材料科学を数学する

2012年04月30日

2012年2月20日から24日まで仙台で開催された今年のアニュアルワークショップは、研究所として成熟期を迎えようとしているWPI-AIMRが、東日本大震災による影響から力強く回復しつつあることを証明した。

WPI-AIMRアニュアルワークショップは、東北大学原子分子材料科学研究機構(WPI-AIMR)の知的活動の中心となるイベントであり、機構のメンバーが世界各地から集結して、材料科学の最新の展開やWPI-AIMRの研究の成果について議論する場である。

『グリーン・イノベーションに向けた最先端の機能性材料』というテーマの下、2月20日から24日にかけて仙台国際センターで開催された第5回アニュアルワークショップには、10カ国から267人の研究者が参加した。このワークショップは、2011年3月11日の東日本大震災により東北地方が甚大な被害を受け、多くの人命が奪われて以来初めて開催されたものである。東北大学は、この地震の震源に最も近い研究機関であり、設備の多くが激しい損傷を受けたが、職員と学生のひたむきな努力により、震災から半年以内に震災前の活動の大半を再開することができた。震災を乗り越えようとする日本政府と地方自治体、地域社会による支えも大きな助けとなった。2012年4月には、東北地方の復興と再生に向けた国をあげての取り組みの一環として、東北大学に災害科学国際研究所が新設される。

山本嘉則機構長
山本嘉則機構長

今回のアニュアルワークショップは、2011年3月にWPI-AIMRの第5の研究グループとして数学ユニットが加わってから初めて開かれるワークショップでもあるため、数学と材料科学の相互作用がプログラムの中心となった。ワークショップ初日には、山本嘉則機構長が歓迎の挨拶の中で、WPI-AIMRの今後5年間の科学的な方向性において数学が重要な役割を果たすことになると語った。山本機構長は、「私たちは、新たに加わった数学ユニットが、4つの研究グループの学際的な『融合』研究を加速させることを強く期待しています」と述べた。「なぜなら、数学は広範な研究分野の根本的な問題を扱うことができるからです・・・私たちは、数学が触媒となる学際的な融合研究から、まったく新しい材料科学が生まれてくると信じています」。

2007年の設立当初からWPI-AIMRを率いてきた山本機構長は、2012年4月にこの地位を退き、数学ユニット長である小谷元子副機構長が次の機構長となる。小谷次期機構長は世界的な数学者であり、2005年には「離散幾何解析学による結晶格子の研究」により猿橋賞(自然科学の分野で顕著な研究業績をあげた女性科学者に贈られる賞)を受賞している。2012年4月からWPI-AIMRを率いることになる小谷次期機構長は、国内に6か所ある世界トップレベル研究拠点(WPI)で最初の女性拠点長となる。

小谷元子次期機構長
小谷元子次期機構長

会場に集まった参加者に向けて開会の辞を述べた井上明久東北大学総長も、数学的視点を加えた材料科学研究の重要性を強調した。井上総長はまず、WPI-AIMRが設立以来「研究活動を通じて異なる研究分野を融合させ新しい研究分野を生み出す一方で、研究環境の改革と人材養成にも力を注いできた」ことに敬意を表した。続いて、「新しい数学的視点」がもたらす挑戦と機会を歓迎し、これにより「学際研究と融合研究が促進されて、新しい材料科学の誕生と革新的な機能性材料の開発につながる」と同時に、WPI-AIMRが「世界の材料科学をリードする比類なき研究所」として発展しつづけるのに大きく貢献するだろうと述べた。さらに、WPI-AIMRの127人の研究者のうち61人が外国人であるという国際色の豊かさを称賛し、海外の15の連携機関と、ケンブリッジ大学、カリフォルニア大学サンタバーバラ校、中国科学院化学研究所という3つのサテライト機関の貢献を高く評価した。

井上総長はまた、WPI-AIMRが東北大学で担っている重要な役割について述べ、東北大学アクションプラン(井上プラン)を通じてWPI-AIMRの組織を強化し、国際研究ネットワークとしての発展に協力すると話した。さらに、WPIプログラムが終了したあとも、「WPI-AIMRの業績を土台にした世界の英知が集う材料科学高等研究所を設立する」ために、機構に「最大限の継続的な支援」を提供する予定だと述べた。

2012年WPI-AIMRアニュアルワークショップには、10カ国から260人以上の研究者が参加した。
 
2012年WPI-AIMRアニュアルワークショップには、10カ国から260人以上の研究者が参加した。
 

WPI-AIMRが数学的視点を加えた材料科学を目指しはじめたことは、ワークショップのプログラムにも反映された。プログラムは、小谷次期機構長が司会をつとめる数学-材料に関するプレナリーセッションからはじまり、量子力学、非周期性固体とネットワーク形成、イオノマー膜におけるイオン伝導についての講演が行われた。これに続いて、初日にはバルク金属ガラス、材料物理、ソフトマテリアルのセッションが行われた。ワークショップでは、システムとデバイス、ソフトマテリアル、バイオデバイス、材料化学など、WPI-AIMRの主要な研究に関するセッションが行われた。3日間を通して、全部で39の講演が13のプレナリーセッションとパラレルセッションに分割されて行われたほか、2日間のポスターセッションも開かれて、広範にわたる最先端の材料科学研究について日本と海外のWPI-AIMR研究者による90件近い発表が行われた。

第5回WPI-AIMRアニュアルワークショップは、小谷次期機構長の閉会の辞により2月24日に幕を閉じた。小谷教授は、材料科学の根本を数学的に理解して融合研究をボトムアップ式に導くというWPI-AIMRの新しいビジョンについて語り、数学的力学系理論に基づく非平衡材料、トポロジカル機能性材料、離散幾何解析に基づくマルチスケール階層性材料などの重要な研究テーマを紹介した。小谷次期機構長は、主催者、講演者、参加者に感謝の意を表し、全員を2013年2月18日から23日にかけて開催される次のWPI-AIMRアニュアルワークショップに招待して、スピーチを締めくくった。