国際ワークショップ
世界を舞台にした融合研究

2010年05月31日

2010年3月25〜27日:東北大学原子分子材料科学高等研究機構(WPI-AIMR)は、仙台で第3回WPI-AIMRアニュアルワークショップを開催した。

2010年WPI-AIMRアニュアルワークショップの参加者を歓迎する山本嘉則WPI-AIMR機構長
2010年WPI-AIMRアニュアルワークショップの参加者を歓迎する山本嘉則WPI-AIMR機構長

WPI-AIMRアニュアルワークショップは、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(WPI-AIMR)の年間行事の中でも特に重要なイベントである。WPI-AIMRの研究者にとって、世界各国から招かれた著名な研究者たちと材料科学の最新の研究成果について意見を戦わせ、情報やアイディアを交換し、将来の展望について語り合う絶好の機会であるからだ。

第3回にあたる2010年は、WPI-AIMRの本拠地、仙台市で3月25日から開催された。アジア、オセアニア、ヨーロッパ、北米の17カ国から220人以上の研究者が参加し、その中には世界的に名高い材料科学者も多く含まれていた。季節はずれの寒さをものともせず、3日間にわたりさまざまなテーマについて議論を繰り広げた。

山本嘉則WPI-AIMR機構長は歓迎のあいさつの中で、ワークショップの期間中、参加者全員ができるだけ多くのセッションに出席することを奨励した。山本機構長はまた、WPI-AIMRの基本方針が「融合研究」にあることを強調し、今回の講演プログラムを作成するにあたり、バルク金属ガラス、ナノ物理、ナノ化学バイオ、デバイス/システムなど複数のトピックを同時に取り上げるパラレルセッション形式を選んだのは、WPI-AIMRのミッションを反映し、分野横断的な思考を促すためであると説明した。

2010年Acta Materialia Gold Medalを授与された井上明久東北大学総長(右)
2010年Acta Materialia Gold Medalを授与された井上明久東北大学総長(右)

広範にわたるパラレルセッションは、海外の研究機関に勤務するWPI-AIMRメンバーなど、材料科学分野をリードする国際的な研究者による18のプレナリー講演を補完した。3月26日の午後に行われたポスターセッションでは、多様なトピックについて約80のポスター発表が行われ、参加者の間で活発な議論が交わされた。

26日にはまた、WPI-AIMRの国際アドバイザリーボードのメンバーである井上明久東北大学総長に、2010年Acta Materialia Gold Medalが授与された。この賞はActa Materialia Inc.が1974年に創設したもので、材料科学分野で特に大きな貢献をした研究者に毎年贈られている。井上総長は日本人として3人目、東北大学からは2人目の受賞者となる。今回の受賞は、バルク金属ガラスに関する同総長の先駆的な研究と、材料科学分野での傑出した実績と指導力が評価されたものであり、仙台国際センターで行われた授賞式では、Acta Materialiaの事務局長であるカーネギーメロン大学のTed B. Massalski教授からメダルが授与された。

今回のワークショップの目玉の1つは、IBMチューリッヒ研究所のGeorg Bednorz教授による特別講演だった。高温超伝導の研究で1987年にノーベル物理学賞を受賞した同教授は、「ナノテクノロジーの展望を切り開く」というテーマで、自身の研究所での活動を中心に広範な内容の講演をした。WPI-AIMRの国際アドバイザリーボードのメンバーであるBednorz教授はAIMResearchのインタビューに答えて、WPI-AIMRで行われている研究を称賛した。「去年、WIP-AIMRのワークショップに出席したときに、その活気に強い感銘を受けました」とBednorz教授は話す。同教授が特に感心したのは、WPI-AIMRの研究活動が「きわめて多岐にわたっている」ことだった。また、融合研究のアプローチは「非常に重要」であると言い、若手研究者に自由に研究をさせるWPI-AIMRの方針を高く評価した。

第3回WPI-AIMRアニュアルワークショップの参加者たち
 
第3回WPI-AIMRアニュアルワークショップの参加者たち
 

「私は、若手研究者がイニシアチブを取ることが重要だと考えています… 彼らが研究費の助成を受け、共通のプロジェクトを自分たちのものにしていくこと。これが重要だと思います」とBednorz教授は語った。

山本機構長もAIMResearchのインタビューに答えて、融合研究の重要性を説き、融合研究を軸としてWPI-AIMRの研究活動を進めていく方針を改めて強調した。「WPI-AIMRが設立されてから3年目に入り、その前進に必要な組織と研究体制がようやく整ったという手ごたえが感じられるようになりました。私たちは既に多くの興味深い研究成果を上げていますし、今後は、そのペースを加速していくことになります。この目標を達成するためには、融合研究の概念が必要不可欠なのです」。

日本の研究所に外国人研究者を増やすことを長年提案してきた山本機構長は、このワークショップの国際的な多様性を歓迎している。彼の信念は、WPI-AIMRのスタッフ構成にも表れている。助教以上の研究スタッフの3分の1と、ポスドクの3分の2近くは外国人であり、山本機構長は、この事実がWPI-AIMRの主要な強みの1つと考えている。それができたのは、日本国内だけでなく海外からも優秀な若手研究者を積極的に採用するという方針を貫いてきたからだと言う。「今では、海外の若手研究者の方から、WPI-AIMRで研究させてもらえないかと問い合わせが来るようになっています。近い将来、世界中の若手研究者が、材料科学の研究キャリアを積むためにWPI-AIMRに来ることを、ごく自然な選択肢と考えるようになるでしょう」と山本機構長は語る。

2010年WPI-AIMRアニュアルワークショップが見せた研究水準の高さと、各国の若手研究者をはじめとする参加者たちの熱気は、山本機構長の夢がそう遠くない未来に実現することを暗示しているように思われた。