ラウンドテーブル・ディスカッション
新たな材料科学研究の概念を求めて (Part II)

2009年09月27日

ラウンドテーブル・インタビューの後半は、フュージョン・リサーチ、国際化への道のり、若手研究者へのアドバイスについて、グループリーダーたちが貴重な意見を語っています。

AIMResearch: それでは次のトピックに移ります。WPI-AIMRが推し進める「フュージョン・リサーチ」についてお聞かせください。

山本:  多くの人が研究の融合や共同研究について語っていますが、実際に行動に移さざるを得ない状況にある研究者はめったにいません。また彼らは、共同研究に向けた過去の様々な取り組みにも十分満足できていません。この状況を打破するために、私たちは、異なる4つのグループが密な連携をする「フュージョン」という概念をつくりました。このアイディアの成功の秘訣は、すべての研究者にフュージョン・リサーチに参加するよう要請したことです。研究者は、自分の専門分野の研究だけを続けたいと思いがちです。それが普通の考え方ですし、一番面白いというのも事実です。でも、私は彼らに「自分の研究シーズの中からいくつかピックアップして、他の分野の研究シーズとブレンドしてみてください」と言い続けています。

宮崎:  実際、デバイスやシステム開発の研究は、フュージョン・リサーチのたまものです。素材の開発など他のグループの成果なしに、私たちの仕事は成り立ちません。フュージョン・リサーチは始まったばかりですが、すでに他のグループからたくさんの共同研究の申し出を頂いています。従来とは違った、新しい共同研究の形を模索していきたいと思います。

AIMResearch: WPI-AIMRの目標のひとつは、国際的なプレゼンスを高めることです。この目標を達成するための課題は何ですか?

山本:  まず難しいのは、外国の第一線の研究者に、最低でも年に数カ月間、日本に滞在してもらうことです。カンファレンスなどのために一週間程度滞在するだけでは、何にもなりません。外国人研究者のリクルートは、私の主な仕事のひとつですが、簡単なことではありません。なぜなら、トップクラスの外国人研究者は、すでにどこかの国で足場を固めており、わざわざ日本に移り住む理由がないからです。それにもかかわらず、私たちは、優れた外国人研究者にラボを設立してもらうよう様々な働きかけをしています。

櫻井:  米国にいる30代の若手研究者は、一定の期間日本にいることによって、自分の存在が忘れられてしまうのを恐れています。自国に戻った後、良いポジションが得られないかもしれないからです。別の課題は、古くから言われていることですが、やはり語学ですね。

山本:  WPI-AIMRでは英語が公用語なので、コミュニケーションの問題は特にないと思います。しかし、ここから一歩外に出て町の中では、一定の日本語スキルは必要でしょう。

陳:  言語の問題は、日本の若手研究者にも当てはまることです。科学では英語は共用語です。私が日本に来た頃は、英語でコミュニケーションが取れるリサーチアソシエイトや学生をさがすのに苦労しました。今は、状況は改善してきていると思います。

AIMResearch: 日本は外国人研究者にとって大変な国のようですが、陳先生、WPI-AIMRに来ようと思ったきっかけを教えていただけますか。

陳:  私は実際、日本の研究システムをすばらしいと思っていました。米国では、教授にとって研究はパートタイム業務のようなもので、授業に多くの時間を割かなければなりません。日本では、教授はリサーチアソシエイトを雇えるし、研究により専念できます。また、WPI-AIMRには最新鋭の研究設備があり、最先端のプロジェクトがたくさん走っています。オープンでフレンドリーな環境も好ましいです。これらが、私がWPI-AIMRに来た主な理由ですが、多くの若い人もここで研究したいと思っていることでしょう。他にも、WPI-AIMRでは国際会議やワークショップを通じて有名な科学者と会う機会がたくさんあります。私はWPI-AIMRを存分に楽しんでいます。

櫻井:  米国は若くて有能な研究者が新しいことを始めるのに最も適した国です。しかし、10-20年後を見据えて何かを深く追求し、結果を出したいなら、米国式のシステムは必ずしも良いとは言えないでしょうね。プロジェクトを頻繁に変えないといけませんから。

山本:  WPI-AIMRは、米国式でも日本式でもない、新しくてより良いシステムを作ろうとしています。WPI プログラムは日本政府のテストケースだと私は思います。もし、10年後、 15年後にも私たちが成功していたら、政府は日本全体の研究システムを変えるのに、WPI拠点が培ったノウハウを応用するでしょう。

私がもう一つ強調したいのは、WPIプログラムは、グローバルCOE(global center of excellence; G-COE)プログラムとは大きく違うことです。G-COEは5年から10年で終わるので、参加していた研究者は元の職場に戻らなければなりません。しかし、政府はWPI拠点を解散しようとは考えていません。新しい研究棟も建てていますし。私たちは、今後もずっと存続し続けるのです。

AIMResearch: 他にも、WPI-AIMRの強みや若手研究者へのアドバイスはありますか?

宮崎:  研究に没頭できるところです。以前他の研究機関にいた時は、授業、会議および事務手続きなど研究以外の様々な仕事をする必要がありましたが、ここではそのような業務に関わることは少ないです。一方、終身雇用ではないので、次のポジションにステップアップすることを常に考えておかなければなりません。

橋詰:  最近の若者は、ともすると保守的になりがちで、短期的に物事を考えるようになっている気がします。多くの若手研究者は、大学院の時と同じ研究グループで仕事を続けようとします。しかし、若いうちは今いる場所から飛び出して、国内外の色々な研究グループや研究分野に触れたほうがずっとためになるのです。それから、自分が50才―60才なった時に何をしたいか、しっかり考えて行動しなければなりません。たとえ何十年か先に何が起こるか分からなくてもです。宮崎教授がおっしゃったように、多くの大学では助教・准教レベルの若手・中堅研究者は、書類の作成など事務的な仕事に忙殺されがちですが、WPIでは、ポスドクなどの若手研究者と協力しながら、思う存分研究に集中できます。

櫻井:  私たちは、リサーチプロポーザルに基づいた新しい研究イニシアティブを支援するために、最大500万円の研究助成金を提供することができます。応募は年度を通していつでも受け付けています。他にも、海外のカンファレンスに参加するための補助金制度が充実していますし、3か月から6か月ほど海外で研究することも可能です。それに、WPI-AIMRがすでに世界の研究仲間から高く評価されているという事実は、ここの研究者が将来他の研究機関に移って、良いポジションを得るための好材料となるでしょう。

 
 

山本:  若手研究者にとって、WPI-AIMRは次のキャリアステージに進むための有益な経路になると思います。自由と柔軟性を尊重する環境なので、若い人でもフュージョン・リサーチや、WPI-AIMR内外の研究者との共同研究などを積極的に進めることができます。スマートで自主性のある研究者が、将来の飛躍のために、WPI-AIMRを大いに利用することを願っています。

AIMResearch: 大変有意義なディスカッションでした。どうもありがとうございました。 

注: 本記事は、英文オリジナル記事をもとに、一部加筆・修正してあります。

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