リチウム空気電池: 2種類の触媒の相乗効果で効率が向上

2020年06月29日

固体触媒と液体触媒を併用することでリチウム空気電池のエネルギー効率が向上した

AIMRの研究者らは、高角環状暗視野走査透過顕微鏡の電子線(黄色の円錐)を用いて、ナノスケールの界面電気化学反応を実空間で画像化した。差込図に金電極(金色の長方形)の周辺領域を示す。赤色はリン酸鉄リチウム(LiFePO4)、青色はRuO2、灰色はLi2O2
【図中文字】
Electron beam: 電子線
Flowing electrolyte: 電解質の流れ
Microchip: マイクロチップ
Electrolyte with TTF: TTF(テトラチアフルバレン;C6H4S4)を含む電解質

© 2020 Mingwei Chen

充電式リチウム空気電池で固体触媒と液体触媒を併用すると、相乗効果を発揮して、正極(カソード)の反応速度と電池のエネルギー効率の両方が向上することが、東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の研究者らによって見いだされた1。これは、リチウム空気電池の商業化を阻んできた二つの主要な障害を克服する道を示す成果である。

AIMRの陳明偉(Mingwei Chen)教授は、「リチウム空気電池は、次世代電気化学エネルギー貯蔵デバイスの最も有望な候補の一つですが、正極での反応速度が遅い上、エネルギー効率が低いため、実用化には至っていません」と説明する。

リチウム空気電池は、金属リチウムの負極、非水系電解液、多孔質材料の正極という三つの主要構成要素からなる。この電池は、放電時にはリチウムの過酸化リチウム(Li2O2)への酸化を通してエネルギーを放出し、充電時にはLi2O2のリチウムと酸素への分解という逆反応によってエネルギーを貯蔵するが、いずれの反応も促進させるには触媒が必要だ。

リチウム空気電池用の触媒としては、固体触媒と液体触媒の両方が開発されてきたが、これらの触媒にはそれぞれ欠点がある。「固体触媒はLi2O2との接触界面が柔軟でなく不安定で、液体触媒は触媒効率が低いのです」と陳教授は言う。

これまでの研究で、固体触媒と液体触媒の併用がリチウム空気電池のエネルギー効率を向上させるのに有望であることが示されているものの、その根底にある機構や触媒の最適な組み合わせについては検討されていなかった。

今回、陳教授が率いる研究チームは、最先端の液体セル透過電子顕微鏡を用いて、これら2種類の触媒を併用した場合の効果を調べた。

研究チームは、固体触媒として酸化ルテニウム(RuO2)、液体触媒としてテトラチアフルバレン(TTF; C6H4S4)を選び、電極と電解質の界面や、電極とLi2O2の界面で起こる動的なナノスケール反応を画像化した(図参照)。

その結果、これら二つの触媒の間に明確な相乗効果があることが明らかになった。固体触媒は、リチウムと酸素の反応を触媒しただけでなく放電時の液体触媒の触媒効率を高め、液体触媒は、Li2O2で不動態化されたRuO2を活性化するとともに充電時のLi2O2の酸化を加速させたのである。こうした相乗効果の結果、充電式リチウム空気電池のエネルギー効率が向上した。

研究チームは、この結果を足場としてさらに研究を進めていく予定だ。「今回の研究で得られた電気化学的知見を活かして、より優れた組み合わせの固体触媒と液体触媒を開発し、高性能リチウム空気電池を実現させたいと考えています」と陳教授は言う。

References

  1. Hou, C., Han, J., Liu, P., Huang, G. & Chen, M. Synergetic effect of liquid and solid catalysts on the energy efficiency of Li−O2 batteries: cell performances and operando STEM observations. Nano Letters 20, 2183–2190 (2020). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。