トポロジカル超伝導体: 従来型超伝導体をトポロジカル超伝導体に変換

2020年04月27日

量子コンピューターへの応用が期待されるトポロジカル超伝導体が、全く新しい手法で実現された

光電子分光測定の結果(左)は、トポロジカル絶縁体(TlBiSe2;中央の図の青色層)上の鉛超伝導膜(Pb;同黄色層)がトポロジカル超伝導体であることを強く示唆している。

参考文献1より改変。CC BY 4.0 の下でライセンスされている。© 2020 C. X. Trang et al.

トポロジカル超伝導体をこれまでとは全く異なる手法で実現できることが、東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の研究者らによって発見された1。従来型超伝導体をトポロジカル超伝導体に変換するという今回の手法によって、トポロジカル超伝導体系の数が大幅に増えると予想され、既存技術では難しかった、ノイズに強い量子コンピューターの実現にもつながると期待される。

超伝導体は抵抗ゼロで電気を流すことができる。トポロジカル超伝導体はその中でも特殊なタイプで、内部は超伝導体だが、表面は金属のように小さな抵抗で電気を通す。この物質では、表面やエッジにマヨラナ粒子というエキゾチックな準粒子が出現する可能性があるため、近年関心が高まっている。マヨラナ粒子は、約80年前にその存在を予想したイタリアの物理学者にちなんで名付けられた粒子で、外部からの影響を受けにくいことから、ノイズに強い(フォールトトレラントな)量子コンピューターの実現を可能にする粒子として期待されている。決定的な観測例はまだないが、その存在を示唆する証拠は増えている。

トポロジカル超伝導体を実現するこれまでの試みでは、超伝導体をトポロジカル絶縁体(内部は電気絶縁体だが表面は電気を通す物質)と接合させる手法が一般的だった。この手法は、超伝導体が界面付近のトポロジカル絶縁体を超伝導化する「超伝導近接効果」を利用している。しかし、この手法で得られたトポロジカル超伝導体でマヨラナ粒子を検出するのは難しい。AIMRの佐藤宇史教授は、「超伝導近接効果は表面から大きく離れた界面で起こるため、表面を探査する分光法でマヨラナ粒子を調べることは一般に困難なのです」と説明する。

今回、佐藤教授らは、超伝導体とトポロジカル絶縁体の間の影響の及ぼし方を逆転させることでトポロジカル超伝導体を実現した。つまり、トポロジカル絶縁体の上に鉛の超伝導薄膜を成長させることによって、トポロジカル特性を従来型超伝導体の方に移動させたのである。困難を極めたのは、薄膜の作製だった。「これまで、トポロジカル絶縁体上に鉛薄膜を成長させることに成功した例はありませんでした」と佐藤教授は言う。「実に難しい挑戦でした。成長条件を入念に最適化し、70以上の試料を作製して、ようやく満足できる試料が得られました」。

研究チームは光電子分光測定を行い、トポロジカル超伝導体が生成したことを強く示唆する結果を得た。

今回の手法は、これまでよりはるかに広範な系にトポロジカル超伝導体を実現できる可能性を開くものだ。「今回のアイデアは、他のさまざまな超伝導体とトポロジカル絶縁体の組み合わせにも広く適用できると考えられます」と佐藤教授は言う。「このアイデアを基に新しい材料系を探索することによって、トポロジカル超伝導体の研究、マヨラナ粒子の検出、最終的には量子コンピューターへの応用が加速されるかもしれません」。

References

  1. Trang, C. X., Shimamura, N., Nakayama, K., Souma, S., Sugawara, K., Watanabe, I., Yamauchi, K., Oguchi, T., Segawa, K., Takahashi, T. et al. Conversion of a conventional superconductor into a topological superconductor by topological proximity effect. Nature Communications 11, 159 (2020). | article

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