リチウムイオン電池: 材料を砕いて電池を高性能化

2018年04月23日

ボールミル粉砕で材料中の一部の原子を欠損させることによって、水素化ホウ素リチウムのリチウムイオン伝導度が1000倍になり、固体電解質としての性能が著しく向上する

リチウムドデカヒドロ-クロソ-ドデカボレート(Li<sub>2</sub>B<sub>12</sub>H<sub>12</sub>)は、ホウ素(緑色の球)と水素(青色の球)からなるケージ状アニオンとリチウムイオン(赤色の球)から構成される。ボールミル粉砕によって一部の水素とリチウムを除去すると、リチウムイオン伝導度が著しく向上した。
リチウムドデカヒドロ-クロソ-ドデカボレート(Li2B12H12)は、ホウ素(緑色の球)と水素(青色の球)からなるケージ状アニオンとリチウムイオン(赤色の球)から構成される。ボールミル粉砕によって一部の水素とリチウムを除去すると、リチウムイオン伝導度が著しく向上した。

参考文献1より許可を得て転載。Copyright (2018) American Chemical Society.

リチウム系材料を粉砕するだけで伝導度が劇的に向上することが、東北大学材料科学高等研究所(AIMR)と東北大学金属材料研究所の研究者らによって明らかにされた1。この発見は、従来の電池よりも安全で効率のよい全固体電池の開発に役立つ可能性がある。

リチウムイオン電池は、モバイル機器から電気自動車まで、あらゆるものにおいて電気を蓄えたり供給したりするのに用いられている。市販の二次電池のほとんどは、電解液を用いて充放電時にリチウムイオンを電極間で移動させている。しかし、電解液は液漏れのおそれがある上、可燃性のものがあるため、安全上の懸念がある。

研究者らは、電解液の代わりにクロソボランなどの固体電解質を用いることを検討している。クロソボランは、ホウ素と水素(と場合によっては炭素)からなるケージ状のアニオンを持つ材料だ。クロソボランのアニオン間の空間はリチウムイオンの伝導チャネルとしての役割を果たすが、アニオンのホウ素原子と水素原子の結合が強いため、構造を変化させて特性を微調整するのは困難である。

今回、金属材料研究所の金相侖(Sangryun Kim)助教とAIMRの大口裕之准教授らは、ボールミル粉砕法で材料中の一部の原子を機械的に欠損させることにより、クロソボランの構造を変化させ、伝導度を向上させられることを示した。

研究者らは、リチウムドデカヒドロ-クロソ-ドデカボレート(Li2B12H12)を5時間粉砕した後、加熱して水分を完全に除去した。分析試験によって、この材料からリチウム原子と水素原子がいくらか抜け、結晶構造内に残ったリチウムイオンの一部が再配列していたことが明らかになった。この材料のコンピューターシミュレーションを行ったところ、少量のリチウムと水素を取り除くのに必要なエネルギーは比較的少ないことが確認された。

この構造変化によって、残留リチウムイオンが結晶構造中の空孔サイト間をホッピングしやすくなり、リチウムイオン伝導度が向上したのである。実際、さらなる実験により、粉砕後の材料のイオン伝導度が粉砕前の約1000倍になっていることがわかった。

次に研究者らは、粉砕後の材料を電池の電解質として用い、金属リチウムでできた負極と硫化チタンでできた正極の間に挟み込んだ。この電池が20回の充放電サイクルにわたって良好な容量を維持したのに対し、未粉砕の材料を用いた電池は容量が小さく、サイクル後の容量の低下が大きかった。

研究者らは、粉砕法を用いれば、ケージ状アニオンを持つ他の材料の組成も調節できるかもしれないと期待している。「原子を欠損させる系統的な手法を検討するとともに、原子欠損とリチウムイオン伝導度の正確な関係を調べるつもりです」と金助教は言う。「こうした基本的な知見に基づき、高イオン伝導性水素化物材料の開発を試みたいと考えています」。

References

  1. Kim, S., Toyama, N., Oguchi, H., Sato, T., Takagi, S., Ikeshoji, T. & Orimo, S. Fast lithium-ion conduction in atom-deficient closo-type complex hydride solid electrolytes. Chemistry of Materials 30, 386−391 (2018). | article

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