リチウム空気電池: 顕微鏡で反応を観察

2017年11月27日

電子顕微鏡用に特別に設計した液体セルによって、これまで困難だったリチウム空気電池の反応の観察が可能になった

AIMRの研究者らは、走査透過電子顕微鏡用に特別に設計した液体セル(左)を用いて 、リチウム空気マイクロ電池の電極と電解質の界面(右)における反応を観察した。
AIMRの研究者らは、走査透過電子顕微鏡用に特別に設計した液体セル(左)を用いて 、リチウム空気マイクロ電池の電極と電解質の界面(右)における反応を観察した。

図中文字
Electron beam: 電子線
Liquid electrolyte: 液体電解質
Electrolyte: 電解質
Electrode: 電極

© 2017 Jiuhui Han

東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の研究者らが、最先端の電子顕微鏡を用いてリチウム空気電池の内部構造を観察することに成功した1。ここで得られた知見は、次世代高性能電池の開発に弾みをつけることが期待される。

あらゆる電池は、二つの電極でイオン伝導性材料(電解質)を挟んだ構造をとる。リチウム空気電池は、どの電池よりも電池重量当たりの貯蔵エネルギー量を大きくできる可能性があるので、電気自動車を走らせたり、再生可能エネルギー発電の電力を貯蔵したりするための次世代電池に適している。しかし、実用化までには多くの難題を克服する必要がある。

リチウム空気電池の実用化を阻む難題のほとんどは、過電圧の大きさ、すなわち熱力学理論から予測される電位と実験で観察される電位に大きな差があることに起因している。この欠点を回避する方法の一つは、電極と放電時に形成される酸化リチウムとの間で電荷を移動させる「レドックスメディエーター(電子の仲介を行なう酸化還元媒体)」を用いることだ。しかし、この方法を最適化するためには、電池内で起こるプロセスをより深く理解する必要がある。

今回、AIMRの陳明偉(Mingwei Chen)教授、Jiuhui Han助手、Chuchu Yang大学院生らは、レドックスメディエーターと液体電解質を用いたリチウム空気電池における反応中のダイナミクスを観察した。観察には最先端の走査透過電子顕微鏡を使用し、実際の電池が動作する条件に近くなるよう観察条件を工夫した。

「これまでずっと、電池用電極材料の電気化学反応の研究には、その場透過電子顕微鏡法が使われてきました」とHan助手は言う。「その際、マイクロ電池には固体電解質を用いることが多く、動作させるのは真空下で、平衡から大きく外れた状態で充放電を行っていました。つまり、実際の電池とは全く異なる挙動を観察していたのです」。

一般的なリチウム空気電池の条件に近づけるため、研究チームは、液体電解質を保持し大気圧下で動作可能な液体セルを使用して(図参照)、従来の電池試験と同様の方法でマイクロ電池の充放電を行った。「実験の設定を実際の電池の条件によく似せてあるので、今回観察された現象は実際の電池にも当てはまるはずです」とHan助手は言う。

Han助手は、「今回の知見は、リチウム空気電池の電気化学の基礎的理解にとって重要な意味があります」と言う。「それだけではありません。電極やレドックスメディエーターの設計方針に示唆を与えることで、次世代電気化学エネルギー貯蔵デバイスとしての高性能リチウム空気電池の開発を勢いづけることでしょう 」。

研究チームは、今回の研究成果を利用して、高性能リチウム空気電池のための改良型の正極やレドックスメディエーターを開発する予定である。また、この液体セル透過電子顕微鏡法を用いて、他の興味深い化学反応や電気化学反応をその場で研究することも考えている。

References

  1. Yang, C., Han, J., Liu, P., Hou, C., Huang, G., Fujita, T., Hirata, A. & Chen, M. Direct observations of the formation and redox-mediator-assisted decomposition of Li2O2 in a liquid-cell Li–O2 microbattery by scanning transmission electron microscopy. Advanced Materials 29, 1702752 (2017). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。