トポロジカル絶縁体: 薄膜を剥がして貼り付ける

2017年10月30日

トポロジカル絶縁体の大型薄膜をさまざまな基板上に作製する新しい手法が開発された

大面積Bi<sub>2−<i>x</i></sub>Sb<sub><i>x</i></sub>Te<sub>3−<i>y</i></sub>Se<sub><i>y</i></sub>(BSTS)トポロジカル絶縁体薄膜の写真。
大面積Bi2−xSbxTe3−ySey(BSTS)トポロジカル絶縁体薄膜の写真。

© 2017 Katsumi Tanigaki

トポロジカル絶縁体という新しいエキゾチック物質の薄膜を作製する巧妙な手法が、東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の研究者らによって開発された1。トポロジカル絶縁体については、高移動度トランジスタや、廃熱を有用な電気に変換する熱電デバイスなどへの応用が考えられているが、今回の新手法により、こうした電子デバイスの実現を阻む障害が克服される可能性がある。

興味深い電気的・磁気的特性を示すトポロジカル絶縁体は、近年、科学者たちの注目の的になっている。なかでも、表面は電流を通すのに内部は絶縁体である3次元トポロジカル絶縁体は、電子の電荷に加えスピンの操作を利用するスピントロニクスという急成長分野への応用が期待されている。しかし、3次元トポロジカル絶縁体を実用的な素子として使用するためには、シリコンをはじめとするさまざまな基板上に、内部の絶縁性が高い大型で高品質の薄膜を作製する方法を確立しなければならない。

今回、AIMRの谷垣勝己教授らは、最も重要なトポロジカル絶縁体の一つであるBi2−xSbxTe3−ySey(BSTS)をさまざまな基板表面上に作製する手法を開発した。この手法ではまず、物理気相蒸着法を用いて、高品質の単結晶BSTS薄膜をマイカ基板上に成長させる。次に、その薄膜系を水に浸し、マイカ基板からBSTS薄膜を剥がして別の基板に転写する。

転写後の薄膜の特性は申し分なく、電子移動度とホール移動度は良好で、スピンカイラリティー・テクスチャーの観点からも、基板間での転写の際に薄膜が損傷しなかったことが分かる。また、約1平方センチメートルという大型のBSTS膜を作製できたことも重要だ(図参照)。さらに、ほかの結晶成長法では触媒が不純物源となることが多いが、今回の作製方法では触媒は不要である。

「3次元トポロジカル物質の最大の問題は、結晶構造中の欠陥のせいで内部が完全な絶縁体にならないことでした」と谷垣教授は説明する。「純粋なトポロジカル表面を得るためには、内部由来のホールと電子を最小限にすることが不可欠なのです。今回の薄膜結晶成長法では、そうした理想的な状態が実現されています」。

膜をさまざまな基板に転写できることは、非常に有用である。「現在の電子デバイスは、ほぼ例外なくシリコンベースの技術によって作製されています。私たちの手法は、シリコン基板上に3次元トポロジカル薄膜を作製する手段として有望です」と谷垣教授は言う。「こうした薄膜を透明プラスチックに転写すれば、フレキシブルなウエアラブル電子デバイスなども製作できます」。

研究チームは、今回の手法を用いて、BSTS以外の3次元トポロジカル絶縁体の薄膜を作製したいと考えている。また、トポロジカル表面状態に基づく熱電物質を開発して、廃熱を電気に変換するデバイスに利用できるようにすることも検討中だ。

References

  1. Tu, N. H., Tanabe, Y., Satake, Y., Huynh, K. K., Le, P. H., Matsushita, S. Y. & Tanigaki, K. Large-area and transferred high-quality three-dimensional topological insulator Bi2−xSbxTe3−ySey ultrathin film by catalyst-free physical vapor deposition. Nano Letters 17, 2354–2360 (2017). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。