二次元材料: 原子シート材料にも三次元構造がある

2017年05月29日

さまざまな分野での応用が期待されている単層材料の三次元構造が、電子線回折法によって初めて明らかになった

二硫化モリブデン(MoS2)の半導体1H相(左)と金属1T相(右)では、異なる電子線回折パターンが得られる(青色の大きな球はモリブデン原子、黄色の小さな球は硫黄原子を表す)。硫黄原子の層を「滑らせる」(黒色矢印)ことによって、一方の相をもう一方の相に変換することができる。。
二硫化モリブデン(MoS2)の半導体1H相(左)と金属1T相(右)では、異なる電子線回折パターンが得られる(青色の大きな球はモリブデン原子、黄色の小さな球は硫黄原子を表す)。硫黄原子の層を「滑らせる」(黒色矢印)ことによって、一方の相をもう一方の相に変換することができる。

© 2017 Ziqian Wang

東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の研究チームが、単層の二硫化モリブデン(MoS2)の三次元構造を測定することに成功した1

面内方向に単位格子の繰り返し構造を持つ原子シート材料は二次元材料と呼ばれる。これまで最も注目されてきた二次元材料はグラフェンだが、バンドギャップがないため、エレクトロニクスへの応用には限界がある。その点、遷移金属ダイカルコゲナイド(transition-metal dichalcogenide;TMD)という二次元材料は、グラフェンと共通の長所を持ちながら、グラフェンにはないバンドギャップを持つ。

今回、AIMRの陳明偉(Mingwei Chen)教授が率いる研究グループの大学院生 Ziqian Wang氏らは、動的電子線散乱を用いて単層TMD二硫化モリブデンの三次元情報を収集できることを初めて示した。この手法は、二硫化モリブデンの半導体1H相と金属1T相を区別することを可能にした。二つの相は異なる対称性を持っており、MoS2の硫黄原子の層を「滑らせる」ことによって、一方の相をもう一方の相に変換することができる。

二次元材料の三次元構造の評価というと、矛盾しているように思われるかもしれない。しかし、すべての二次元材料が完全に平坦であるわけではない。二硫化モリブデンのような3原子層材料は固有の構造を持ち、一部の原子はシート面の上や下にはみ出している。

この固有の構造が重要なのだ。「三次元構造は、MoS2の材料特性に影響を及ぼすだけでなく、MoS2単層と他の二次元材料との組み合わせによって形成されるヘテロ接合や積層体の特性にも影響を及ぼす可能性があります」とWang氏。MoS2の場合、金属−半導体転移の基本メカニズムの理解を深めたり、金属−半導体接合として1T−1H界面を持つTMD電子デバイスを設計したりする際に、二次元TMD材料の三次元構造が重要になる。

高分解能電子顕微鏡法は、基本的に三次元構造を二次元投影する手法であるため、その画像では二次元TMD材料の立体構造はよくわからない。これに対して、電子線が単層試料と相互作用することで起こる動的散乱では、生成した回折パターンに三次元情報がエンコードされるため、回折パターン内の回折スポットの強度を比較することによって、三次元構造に関する情報を復元することができる。

「二次元材料を研究する場合には、電子線回折パターンを解析して三次元情報を抽出することで、透過電子顕微鏡法や走査透過電子顕微鏡イメージングの弱点を補うことができるかもしれません」とWang氏は言う。

「この手法は、同じ相と構造を持つ他の単層TMDにも適用できるはずです。他の二次元材料の三次元構造の決定にも、同様の回折パターン解析が役に立つでしょう」。

References

  1. Wang, Z., Ning, S., Fujita, T., Hirata, A. & Chen, M. Unveiling three-dimensional stacking sequences of 1T phase MoS2 monolayers by electron diffraction. ACS Nano 10, 10308–10316 (2016). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。