金触媒反応: 原子スケールで触媒を調べる

2016年06月27日

ナノ多孔質金の原子マップと触媒作用の比較から、表面欠陥が重要な触媒反応サイトになることが明らかになった

ナノ多孔質金の中にできた細い橋状の部分(リガメント)の原子配置。色は配位数を表す(赤色は5〜6配位、青色は7配位、ピンク色は8配位、黄色は9~11配位)。挿入図は、同じ構造を違う角度から見た図。
ナノ多孔質金の中にできた細い橋状の部分(リガメント)の原子配置。色は配位数を表す(赤色は5〜6配位、青色は7配位、ピンク色は8配位、黄色は9~11配位)。挿入図は、同じ構造を違う角度から見た図。

© 2016 WILEY-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA, Weinheim

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究者らは、ナノ多孔質金触媒の原子の三次元配置をマッピングすることによって、表面欠陥が触媒能に重要な役割を果たしていることを示した1

金ナノ構造体は酸化反応を加速する触媒として広く利用されていて、有毒な一酸化炭素を無害な二酸化炭素に変換する反応などにも用いられている。しかし、そのしくみはいまだに解明されておらず、長年にわたって論争が続いている。

金ナノ構造体の触媒機構の解明を難しくしている要因の一つは、そのナノ構造にある。金ナノ構造体の多くは酸化物表面に金ナノ粒子を担持させた構造になっていて、酸化物基材が触媒作用にどの程度影響を及ぼしているのか判断しにくいのだ。その点、小さな孔がたくさん開いた金構造体であるナノ多孔質金は、金ナノ粒子のように基材に担持させる必要がないため、金本来の触媒作用を研究するのに理想的な系と言える。

今回、AIMRの陳明偉(Mingwei Chen)教授とPan Liu助手らは、最先端の電子顕微鏡法とトモグラフィーを組み合わせて、ナノ多孔質金の中にできた細い橋状の部分(リガメント)の原子配置を三次元で可視化した(図参照)。そして、この三次元マップを触媒作用の測定結果と比較した。

得られた画像からは、個々の原子の位置だけでなく、その周囲にある原子の個数(配位数)も明らかになる。リガメントの深いところに位置する原子は、周囲の原子によって完全に取り囲まれているため配位数が大きいのに対し、表面や表面付近に位置する原子は配位数が小さい。研究者らは、こうした低配位表面原子についての電子顕微鏡法による評価の結果と、活性サイトでの触媒作用の測定結果が定性的に一致することを見いだした。このことは、ナノ多孔質金の触媒作用に表面欠陥が重要な役割を果たすことを示唆している。

「ナノ多孔質金の曲面は、平坦な『テラス』と、高さの違うテラスの境界にあたる『ステップ』と、ステップが曲がって角になった『キンク』から構成されており、これらはそれぞれ異なる配位数に対応しています」とLiu助手は説明する。「概して、配位数が5〜6しかない配位不足のサイトは酸化反応における活性が高く、配位数が9を超えるサイトは相対的に活性が低いと考えられています。今回の研究は、この推定を裏付けるもので、触媒作用が配位不足の表面原子だけに起因するという強力な証拠が得られました」。

Liu助手は、他の触媒系にも同様の手法が適用できるかもしれないと考えている。「今回の研究結果は、ナノ材料を原子スケールで定量的に測定することによって、その触媒機構に関する重要な知見が得られることも示しています」。

研究チームは、表面積がもっと大きく配位不足の原子が多いナノ多孔質金粒子を作製してその触媒特性の評価を行い、金触媒の触媒性能を向上させていきたいと考えている。

References

  1. Liu, P., Guan, P. Hirata, A., Zhang, L., Chen, L., Wen, Y., Ding, Y., Fujita, T., Erlebacher, J. & Chen, M. Visualizing under-coordinated surface atoms on 3D nanoporous gold catalysts. Advanced Materials 28, 1753–1759 (2016). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。