二酸化チタン: 結晶界面を原子レベルで明らかに

2016年05月30日

多結晶材料の粒界の原子構造を操作することによって、物理特性の制御が期待できる

二つの二酸化チタン結晶を人工的に接合することによって形成した粒界の走査透過電子顕微鏡写真。
二つの二酸化チタン結晶を人工的に接合することによって形成した粒界の走査透過電子顕微鏡写真。

© 2016 Yuichi Ikuhara

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究者らは、二酸化チタン(TiO2)の結晶界面の構造を原子レベルで明らかにし、温度や圧力が材料の構造と特性にどのような影響を与えるかを調べた1

多結晶材料は、文字どおり多数の微小な結晶からできている。二つの微小結晶の界面は「粒界」と呼ばれ、その構造は材料の強度や導電性などの特性に強く影響を及ぼすことが知られている。温度や圧力が変化すると、結晶を構成する原子配列も変化し、特に粒界においてそれが顕著になる。これより誘発される粒界構造変態により、材料自体の特性も変化する。

この変化を調べるには、粒界の原子位置を正確に特定する必要がある。従来の走査透過電子顕微鏡法(STEM)では重元素カラムの観察は可能であったが、酸素など軽元素の観察には適していなかった。

今回、AIMR主任研究者である幾原雄一教授らは、収差補正高角環状暗視野(HAADF)STEMと、重元素と軽元素を同時に観察できる環状明視野(ABF)STEMという2種類の最先端のSTEM技術を用いて二酸化チタンの粒界を調べた。二酸化チタンは、触媒反応、太陽電池、ガスセンサーなどさまざまな用途に用いられており、粒界中の酸素原子の位置は、材料の導電性や触媒活性に大きな影響を及ぼすと考えられている。

研究チームは、二つの二酸化チタン結晶を接合して人工の粒界を作り(図参照)、HAADF STEMとABF STEMによる観察で酸素原子が粒界に沿って周期的に並んでいる様子を明らかにした。

また、試料を低圧下で800℃まで加熱したところ、一部の酸素が粒界から抜け出ることによって特異な緩和構造を形成することがわかった。幾原教授によると、酸素が粒界から抜けることで、粒界での電気伝導度が上昇するという。

しかし、試料を真空中で加熱すると、酸素原子が粒界に沿ってジグザグに配列する特徴的な構造を形成した。幾原教授は、「こうした条件で二酸化チタンの粒界の原子構造が劇的に変化したのは、非常に意外でした」と言う。この変化を第一原理理論計算でシミュレーションした結果は、実験観察結果とよく一致していた。

今回の研究成果は、多結晶材料の特性を、熱処理や低圧処理によって制御できることを示唆している。例えば、多結晶材料を電子デバイス用に最適化することなどが考えられる。「粒界の原子構造を制御することで、絶縁性の粒界を導電性の粒界に変えることができるかもしれません」と幾原教授。

研究チームは本研究を起点にし、他の材料の粒界でも温度と圧力の変化がどのような影響を及ぼすか解明しようとしている。

References

  1. Sun, R., Wang, Z., Saito, M., Shibata, N. & Ikuhara, Y. Atomistic mechanisms of nonstoichiometry-induced twin boundary structural transformation in titanium dioxide. Nature Communications 6, 7120 (2015). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。