リチウム空気電池: ナノ多孔質グラフェンで超大容量化を実現

2016年03月28日

三次元構造をもつナノ多孔質グラフェンをリチウム空気電池の正極に使用することによって、従来のリチウムイオン電池の100倍の電気容量が実現可能になる

ナノ多孔質グラフェンを正極に用いることによって、空気中の酸素を「呼吸」するリチウム空気電池の電気容量が劇的に向上する。
ナノ多孔質グラフェンを正極に用いることによって、空気中の酸素を「呼吸」するリチウム空気電池の電気容量が劇的に向上する。

© 2016 WILEY-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA, Weinheim

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究者らは、平坦なグラフェンシートに三次元構造を持たせることによって、軽量で金属を用いないリチウム空気電池用電極を開発した。この電極は、電気のみで駆動する電気自動車に革新をもたらす可能性がある1

今日のリチウムイオン電池は重量が重く、電気容量もあまり大きくないため、これに代わる二次電池の探索が急がれている。代替二次電池として有望なのが、リチウム空気二次電池である。この電池は理論エネルギー密度が非常に高いだけでなく、大気中の酸素を「呼吸」して電気を作ることができるため、リチウム金属と電解液と空気だけで作動するからだ。

現在開発中のリチウム空気電池では、遷移金属触媒を担持させた活性炭を正極として用いることが多い。けれども活性炭は、リチウム空気電池の一般的な動作条件下で不安定化し、充放電を数回繰り返すと電解液を分解し始め、すぐに電池性能が低下してしまう。

もう一つのアプローチは、二次元格子構造をもつグラフェンを正極として用いることだ。グラフェンは表面積が大きく、化学的および機械的安定性に優れ、電気伝導性が高いからである。しかし、グラフェンを電気化学セルに実装するには問題がある。グラフェンは金属電極と接触させたり金属触媒を担持させたりしにくい上、形状的に、長所を損なうことなく3次元の電極にして電池に実装するのが難しいからだ。

AIMRの陳明偉(Mingwei Chen)教授と大学院生のJiuhui Han氏らは、最近、ナノ多孔質ニッケルを鋳型として表面にグラフェンを成長させてから鋳型のニッケルを除去するという手法により、二次元のグラフェンに三次元構造を持たせることに成功している(過去のハイライト参照)。こうして得られたナノ多孔質グラフェンは、分子を捕捉する細孔を数多くもつ一方で、平坦なグラフェンと同じように高い電子移動度を示す。研究者らは今回、AIMRの阿尻雅文教授らと協力して、三次元構造をもたせたグラフェンをリチウム空気電池の電極として利用する可能性を調べた。

ナノ多孔質グラフェンの利点の一つは、平面格子を折り曲げて三次元構造をとらせるときに欠陥が導入されるので、この欠陥に炭素以外の原子をドープすることにより、炭素骨格の表面化学的性質を変調させられることである。窒素原子や硫黄原子は金属触媒なしにリチウム空気電池の反応を促進する可能性があることから、研究チームは三次元構造をもつグラフェンに窒素と硫黄をドープして、それぞれの特性を調べることにした。

研究者らはセンチメートルサイズの柔軟なグラフェン電極を作製し、複雑な組み立てや結合剤が不要なコイン型リチウム空気電池の正極とした(図参照)。この電池の電気化学的特性を調べた結果、正極に窒素ドープナノ多孔質グラフェンを用いた電池の電気容量が市販のリチウムイオン電池より2桁も大きく、数百サイクルの充放電を繰り返せることが明らかになった。

Han氏はこの結果について、「金属を使わないグラフェンを用いたリチウム空気電池としては、これまで報告されているものを上回る高い性能です」と言う。「電気容量がこれだけ大きくなると、携帯型電子機器を大きく変える可能性があるだけでなく、電気自動車の走行距離を1回の充電で500 km以上に伸ばせるようになるかもしれません」。

References

  1. Han, J., Guo, X., Ito, Y., Liu, P., Hojo, D., Aida, T., Hirata, A., Fujita, T., Adschiri, T., Zhou, H. & Chen, M. Effect of chemical doping on cathodic performance of bicontinuous nanoporous graphene for Li-O2 batteries. Advanced Energy Materials 6, 1501870 (2016). | Article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。