金属ガラス: 金属ガラスがMEMSにもたらす「革命」

2016年02月29日

マイクロスキャナーの可動構造のシリコン部品を金属ガラスで置き換えることにより、高い回転性能と低消費電力のMEMSデバイスが可能になった

動作中の金属ガラスベースマイクロスキャナー。シリコンの代わりに金属ガラス部品を用いることによって、回転角度を格段に大きくすることができる。
動作中の金属ガラスベースマイクロスキャナー。シリコンの代わりに金属ガラス部品を用いることによって、回転角度を格段に大きくすることができる。

© 2016 WILEY-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA, Weinheim

シリコンは微小電気機械システム(MEMS)の部品に広く利用されているが、微細加工によって脆くなるため、大きな回転運動を伴うデバイスでは壊れやすい。このたび、東北大学AIMRの研究者らは、シリコンの代わりに強度に優れた金属ガラスを利用してマイクロスキャナーを作製した。このMEMSデバイスは、非常に高い回転性能を持ちながら消費電力は非常に小さく、次世代のセンサーやアクチュエーターへ利用する技術として期待されている1

金属ガラスは、結晶構造を持たない弾性率の低い合金である。東北大学AIMRに赴任して、初めて金属ガラスに出会った林育菁(Yu-Ching Lin)准教授は、すぐにMEMSへの応用の可能性に気づいたという。「金属ガラスはアモルファス構造なので、マイクロスケールやナノスケールでは非常に強いのです」と林准教授。「一方MEMSでは、作動中の破損を防ぐために、丈夫なマイクロ構造やナノ構造が必要とされます。ですから、金属ガラスはMEMSへの応用に非常に向いていると思ったのです」。

林准教授は、シリコンよりも弾性率の低い金属ガラスをMEMSに使えば、より高度な動きを実現できることに気づいた。揺れが大きくなればそれだけ性能は高くなるため、センシングやアクチュエーションへの応用に有利になるからだ。

このアイデアを検証するため、林准教授らは、ジルコニウム系金属ガラスを使ったマイクロスキャナーを作製した(図参照)。このスキャナーの消費電力はマイクロワットレベルで非常に小さく、回転角は146°と非常に大きい。林准教授によれば、シリコンベースMEMSでは、これだけ大きな振れ角と低消費電力を同時に実現するのは極めて難しいという。

金属ガラスMEMSスキャナーの可能性を探るため、研究チームは光コヒーレンストモグラフィー(OCT)画像撮影システムにこのスキャナーを接続して人間の指の画像を撮影してみた。その結果、得られた画像の横方向分解能は、シリコンMEMSスキャナー画像の横方向分解能として文献に報告されている数値の約10倍も高かった。「ほとんどのMEMS研究者がシリコンを用いてOCT画像撮影用のマイクロスキャナーを開発していますが、金属ガラススキャナーではシリコンスキャナーの性能を遥かに超えて、広視野・高横方向分解能・低消費電力・低駆動電圧が同時に実現できます」と林准教授。

高い性能と低消費電力を可能にする金属ガラスMEMSは、電池の高速消耗が懸念される新しいウエアラブル技術への応用においても大いに期待できる。もっと先のことになるだろうが、「私たちが開発したデバイスを自己発電装置と組み合わせることで、将来的には電池も要らなくなるかもしれません」と林准教授は言う。

金属ガラスもMEMSも東北大学が得意とする研究分野だ。AIMRにおける林准教授らの研究によって、二つの分野に橋が架けられ、斬新な金属ガラスMEMSデバイスを開発することが可能になったのである。

References

  1. Lin, Y.-C., Tsai, Y.-C., Ono, T., Liu, P., Esashi, M., Gessner, T. & Chen, M. Metallic glass as a mechanical material for microscanners. Advanced Functional Materials 25, 5677–5682 (2015). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。