磁性: 電界が明らかにする磁石の性質

2016年01月25日

強磁性半導体に電圧を印加することにより磁気的性質を制御できることが明らかになり、スピントロニクスデバイスの改良につながるものと期待される

研究チームが作成したデバイス。デバイス中のヒ化ガリウムマンガン(Ga,Mn)As膜の磁気的性質を電界で制御できることが明らかになった。
研究チームが作成したデバイス。デバイス中のヒ化ガリウムマンガン(Ga,Mn)As膜の磁気的性質を電界で制御できることが明らかになった。

© 2015 Fumihiro Matsukura

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究者らが、電界を用いて強磁性材料の重要な特性を微調節できることを見いだした。この手法は、スピントロニクス(電子のスピンを利用して情報を記録する技術で、低消費電力コンピューティング技術として有望視されている)などへの応用に役立つ可能性がある。

電子はスピンを持ち、微小な棒磁石のように振る舞う。強磁性材料では通常、不対電子のスピンがすべて同じ方向を向いているため、材料全体が磁性(厳密には強磁性)を示す。

スピンの向きは外部から磁界もしくはスピン流を加えることによって変えられるが、その効果の大きさは、ギルバートダンピング定数に依存する。ギルバートダンピング定数は各材料に固有の特性だが、それを決定する要因についてはほとんど分かっていない。

このたび、AIMRの松倉文礼教授、陳林(Lin Chen)助手、大野英男教授は、ヒ化ガリウムマンガン(Ga,Mn)Asという強磁性半導体のギルバートダンピング定数を、電界を用いて制御することに成功した1

金属中を流れる電流が電子の流れであるのに対し、強磁性半導体(Ga,Mn)As中を流れる電流の大部分は、電子が抜けて正の電荷を持つようになった孔(正孔)の流れである。こうした正孔が(Ga,Mn)Asのマンガンイオン上で不対電子と相互作用することにより、(Ga,Mn)Asを強磁性体にしている。

研究チームは、ヒ化ガリウム基板上に厚さ4ナノメートルの(Ga,Mn)As膜を形成し、この膜をアルミナ絶縁体層と金–クロム電極で被覆したデバイスを数種類作製した(図参照)。ここで、各デバイスの(Ga,Mn)As強磁性体層には、異なる割合のガリウムとマンガンが含まれている。

このデバイスに、正電圧および負電圧の下で、さまざまな角度の外部磁界を加えることで、ギルバートダンピング定数の変化を測定することができる。この強磁性共鳴実験により、ギルバートダンピング定数を決める主な要因は(Ga,Mn)As膜中の正孔濃度であることが示された。

(Ga,Mn)Asの中で正孔を多く含む領域は完全に強磁性であるが、正孔が相対的に少ない領域の磁性はかなり弱い。これに電圧をかけると、正孔の分布が変化し、2領域間のバランスに影響を及ぼすことができる。

松倉教授は、「この結果は、(Ga,Mn)Asのギルバートダンピング定数を電気的に調節できることを示しています」と言い、自分たちの手法は、他の材料のギルバートダンピング定数が決まるしくみの解明にも役立つかもしれないと指摘する。

「電界が磁性に及ぼす効果は、基礎物理の観点からも、スピントロニクスデバイスの新機能探索のためにも、非常に興味深いのです。こうした効果を利用して、消費電力の少ない実用的なデバイスを実現したいと考えています」と松倉教授。

References

  1. Chen, L., Matsukura, F. & Ohno, H. Electric-field modulation of damping constant in a ferromagnetic semiconductor (Ga,Mn)As. Physical Review Letters 115, 057204 (2015). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。