相変態: 次世代ナノデバイスへの新展開

2016年01月25日

原子レベルの精度で相変態を誘発し、従来のリソグラフィー法よりもサイズの小さい高密度「ナノピラー」構造を形成することができた

上図: 走査透過型電子顕微鏡(STEM)のナノプローブ(黄色)を用いて、従来のリソグラフィー法では不可能な極小のナノピラー(紫色)を導入する工程を示す模式図。下図: 4本のナノピラーを示す高角度散乱暗視野STEM像。ナノピラーの大きさと間隔は15ナノメートル未満。
上図: 走査透過型電子顕微鏡(STEM)のナノプローブ(黄色)を用いて、従来のリソグラフィー法では不可能な極小のナノピラー(紫色)を導入する工程を示す模式図。下図: 4本のナノピラーを示す高角度散乱暗視野STEM像。ナノピラーの大きさと間隔は15ナノメートル未満。

参考文献1より許可を得て改変。 Copyright 2015 American Chemical Society

機能酸化物に磁気特性の異なる相をナノスケールで導入する方法が、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の幾原雄一主任研究員らのグループによって開発された1。この手法は、走査透過型電子顕微鏡法(STEM)の電子線ナノプローブ使ってナノスケールの微細なパターンを形成するものであり、コンピューターデバイスの記憶容量の飛躍的な増大につながるものと期待される。

結晶の相変態は、機械的な応力をかけたり、温度や圧力を変化させたりすることによって誘発される。このようにして原子位置が変位すると、しばしば材料特性が変化する。その一例が、加熱すると元の形状に戻る「形状記憶」合金だ。しかし、非常に小さいナノスケールの領域では、相変態を誘発してデバイスのパターン形成を行うことは困難であるとされていた。これは熱力学的なゆらぎのせいで、原子位置を精密に制御するのが難しくなるからである。

昨今のSTEMイメージングの技術革新は著しく、特にサブナノメートルの電子ビームを生成する収差補正レンズによって原子1個まで解像できるようになったことにより、極小スケールで相変態を誘発・制御することが可能になった。

このたび、AIMRの幾原雄一教授と陳春林(Chunlin Chen)助教らは、IBMチューリッヒ研究所のJohannes Georg Bednorz博士(ノーベル物理学賞受賞者)らの研究グループと共同で、最先端のSTEMを用いてニオブ酸ストロンチウム(SrNbOx)を対象に上記実験を行った。その結果、電子ビームを照射してSrNbOx中の酸素含有量を微調節することで、絶縁性の層状原子構造から、より充填率の高い高伝導性「ペロブスカイト」結晶への変態が誘発されることが分かった。

研究チームはまず、SrNbOxの単結晶を作製し、イオンシニング法で試料厚を薄くすることでSTEM観察用試料を得た。これを観察した結果、最初は、原子が直鎖状に並んだ層とジグザグに配列した層が交互に重なった層状構造が見られた。次に、さらに数分間STEMの高エネルギー電子線を照射することによって、原子レベルの精度で結晶から酸素原子が離脱することで、局所的に相変態が進む様子が画像に捉えられ、直鎖状に配列していた層が、ファスナーを締めるように互いに閉じてペロブスカイト相を形成する様子が観察された。

「画像を見て胸が躍りました。この相変態をナノデバイスの作製に利用できることに気付いたからです」と陳助教。

ナノデバイス作製の可能性を検証するため、研究チームはSTEMビームを使って層状のSrNbOxバルク中にペロブスカイト相のナノピラー(ナノサイズの原子柱)を形成した(図参照)。このナノピラー相とバルク相は数原子間隔で隣接しており、ナノピラー同士の間隔は5ナノメートルと高密度であった。このことから、今日のメモリーデバイス(20ナノメートル間隔が標準)よりもチップの記憶容量を増やせる可能性がある。

研究チームは、薄膜デバイス中にSrNbOxの形成を試みており、STEMを用いた相変態が材料加工や次世代ナノデバイスに応用されるようになることを期待している。

References

  1. Chen, C., Wang, Z., Lichtenberg, F., Ikuhara, Y. & Bednorz, J. G. Patterning oxide nanopillars at the atomic scale by phase transformation. Nano Letters 15, 6469–6474 (2015). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。