チタン酸ナトリウム: 放射性イオン吸着材として期待されるナノワイヤー

2015年07月27日

放射性イオンに対して優れたイオン交換能を示す、超微細チタン酸ナトリウムナノワイヤーが開発された

超微細チタン酸ナトリウムナノワイヤーの電子顕微鏡写真。
超微細チタン酸ナトリウムナノワイヤーの電子顕微鏡写真。

許可を得て参考文献1より改変。

チタン酸ナトリウムナノワイヤーの新しい作製法が、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究者らによって開発された1。放射性汚染水の除染への活用が期待される。

2011年3月の東日本大震災により福島第一原子力発電所の3基の原子炉でメルトダウンが起き、膨大な量の放射性汚染水が発生した。2014年の日本政府の推定によると、その量は60万トンを超えるという。汚染水による環境汚染を防ぐためには、放射性核種を効率的に捕捉して安全に貯蔵できる材料を開発することが重要である。

チタン酸ナトリウムの一次元ナノ構造体は、その構造に含まれるナトリウムイオンがストロンチウムなどの放射性イオンと交換して補足することが可能であるために注目されている。

研究を率いた浅尾直樹教授によると、一次元チタン酸ナノ構造体はさまざまな方法で作成することができるという。「しかし、多くの方法は作製に加熱条件が必要であり、そのためナノ構造体の結晶成長が進むと共に、表面積の低下や層間距離の減少が起こり、吸着機能が低下する要因となります。これに対して、私たちが開発した方法では加熱することなくナノワイヤーを作製することが可能なため、超微細構造を形成することができました」と浅尾教授は話す。

浅尾教授や中山幸仁准教授らは、通常多孔質金属の作製に用いられる脱合金化法を、チタンアルミ合金リボンに適用した。すなわち、合金リボンを室温下で水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した後、溶液を取り除くだけで、チタン酸ナトリウムナノワイヤーを得た(図参照)。

ナノワイヤーは、合金からアルミニウムが溶出すると共にチタンが酸化されることにより生成すると考えられる。このような簡便なプロセスで、超微細チタン酸ナトリウムナノワイヤーを作製した例は初めてである。

生成したナノワイヤーをX線回折法と透過電子顕微鏡法で解析したところ、ナトリウムイオン層が酸化チタン(TiO6)八面体層に挟まれた層状構造体であることが明らかになった。

「この結果を見て、このナノワイヤー材料が福島の除染に役立つことを期待して、イオン交換特性を調べることにしました。このような層状構造体は、効率的な吸着材として機能する可能性があるためです」と浅尾教授は言う。

評価の結果、このナノワイヤーのストロンチウムイオン交換容量は非常に高く、その取り込み速度も極めて速いことがわかった。

加えて、このナノワイヤーはストロンチウムイオンを選択的に吸着することが可能である。「放射性汚染水には、放射性イオンだけでなく、さまざまな種類の無毒なイオンも大量に含まれています」と浅尾教授は指摘する。「つまり、選択的なイオン交換が必要になります。私たちのナノワイヤー材料は、高濃度のナトリウムイオンが共存していてもストロンチウムイオンを選択的に吸着できることを見出しています」。

超微細ナノワイヤーは大きな可能性を秘めているが、実際に除染に役立てるためには、さらなる研究が必要である。研究チームは、ナノワイヤーの選択的吸着能を高めるために、作製方法を改良していく予定である。

References

  1. Ishikawa, Y., Tsukimoto, S., Nakayama, K. S. & Asao, N. Ultrafine sodium titanate nanowires with extraordinary Sr ion-exchange properties. Nano Letters 15, 2980–2984 (2015). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。