異種物質接合: 超硬物質同士の特殊な接合界面

2015年05月25日

2つの超硬物質を接合した複合物質は、もとの物質以上に興味深い特性を示すことが明らかになった

ダイヤモンドと立方晶窒化ホウ素の界面の明視野走査透過型電子顕微鏡写真。周期的な六角形転位ループの間に積層欠陥がネットワーク上につながっている。
ダイヤモンドと立方晶窒化ホウ素の界面の明視野走査透過型電子顕微鏡写真。周期的な六角形転位ループの間に積層欠陥がネットワーク上につながっている。

© 2015 Chunlin Chen

この世で最も硬い物質であるダイヤモンドと、その次に硬い立方晶窒化ホウ素は、切削・研磨などの重要な材料として利用されている。このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究者らは、これらの超硬物質を接合することによって、もとの物質とは根本的に異なる電子的特性を示す接合界面を作り出した1

2つの異なる物質の界面(異種物質界面)は、太陽電池から磁気記録デバイスまで、幅広い分野で応用されている。しかし、超硬物質同士の接合は極めて難しく、その界面の物性についてはあまり知られていなかった。

AIMRのChunlin Chen(陳春林)助教、Zhongchang Wang(王中長)准教授、幾原雄一教授は、物質・材料研究機構(NIMS)の谷口尚グループリーダーらとともに、温度勾配法を用いてダイヤモンド基板上に立方晶窒化ホウ素の単結晶を1層ずつ成長させることにより接合界面を形成し、変形しづらい超硬物質同士の接合メカニズムを調べた。

高品質の結晶を作るうえで大きな障害となるのが、格子同士の不整合である。格子不整合は、基板と成長結晶の間の結合距離(原子間距離)や結晶構造などが異なる場合に発生し、材料特性を低下させる原因になる。立方晶窒化ホウ素の結合距離は0.157ナノメートル、ダイヤモンドの結合距離は0.154ナノメートルで、その差は0.003ナノメートルしかないが、共有結合性の大きな超硬物質では結晶成長を阻害する大きな要因となる。

金属や半導体などでは、格子不整合を緩和するために、結晶格子に転位と呼ばれる欠陥が導入されることが多い。一般に、結合距離の異なる2つの層の間では、層の間に結合の切れたダングリングボンドができることでミスフィット転位が形成される。Chen助教らは、原子分解能走査透過型電子顕微鏡を用いて界面の観察を行い、格子不整合が周期的に並んだ六角形の転位ループによって補償され、個々の転位ループは連続的な積層欠陥網によって連結されていることを突き止めた(図参照)。この不整合を補償するメカニズムは、従来知られているものとは著しく異なっていた。

「原子分解能走査透過型電子顕微鏡法と第一原理計算を組み合わせることによって、界面でダイヤモンドの炭素が立方晶窒化ホウ素のホウ素と直接結合していることを確認しました。また、ダイヤモンドも立方晶窒化ホウ素もバルクは絶縁体ですが、界面での結合が2次元電子ガスを誘起し、準1次元的な電気伝導性を発現させる可能性があることも確認しました」とChen助教とWang准教授は説明する。

同研究グループは、こうした界面に見られる新規の原子構造と電子状態の相関性についてさらに研究を進め、苛酷な環境下でも使用可能な先端的電子デバイスなどへの応用を期待している。

References

  1. Chen, C., Wang, Z., Kato, T., Shibata, N., Taniguchi, T. & Ikuhara, Y. Misfit accommodation mechanism at the heterointerface between diamond and cubic boron nitride. Nature Communications 6, 6327 (2015). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。