材料: 結晶の中で単一高分子鎖を作る

2014年05月26日

分子結晶の中で固定された鮮やかな色の色素モノマーから、無色の単一高分子鎖を作ることができる

可視光を照射すると分子結晶状態のモノマー(緑色)が重合する。この反応は、加熱すると逆に進む。
可視光を照射すると分子結晶状態のモノマー(緑色)が重合する。この反応は、加熱すると逆に進む。

© 2014 Yonghao Zheng

高分子の単結晶を得ることは難しい。高分子の長く柔軟な骨格は絡まりやすく、長距離秩序を持たない構造を形成する傾向があるからだ。しかし、反応性モノマーを、目的とする高分子の繰り返し距離にほぼ一致する位置に整列させた分子結晶内で重合反応が起こるようにすると、高分子の単結晶の合成が可能となる。このような条件下では、重合時にモノマーが閉じ込められて、長い単一高分子鎖が生成する。

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)とカリフォルニア大学の研究者らは、このたび、こうした手法を用いて、ビス(インデンジオン)という共役有機色素のモノマーから2種類の新しい高分子を構築した1

重合には通常、熱、紫外光、圧力などの外部要因が必要である。ところが、研究者らは今回、可視光を利用してモノマー間の反応を誘起し、新しい高分子を合成した(図参照)。「可視光を使って結晶中の低分子を高分子に完全に変換することができたのは、今回が初めてです」と研究チームのYonghao Zheng助手は言う。

ビスモノマーの色は鮮やかだが、重合によってその共役が切断されるため高分子は無色になり、重合反応の進行状況を肉眼で確認できる。モノマー分子の結晶に光を照射すると、結晶の最上層で重合が起こって透明になる。すると光はこの層を透過して次の層へと進み、重合が起こる。このようにして重合が進んでいき、最終的には結晶全体が無色になる。研究者らは、重合した結晶に貼り付けた粘着テープを剥がすことによって、個々の高分子鎖を単離することができた。

今回生成した高分子の強度は高く、「応用の一つとして、コンポジット材料の強化成分が考えられます」とZheng助手は話す。この高分子は加熱すると透光性を失い、元の色つきのモノマーへと分解されるため、強度の低い部分を色で見分けることができる。

また、研究者らは、高濃度溶液中や半結晶薄膜中のモノマーも重合可能であり、2種類の単一高分子鎖が生成することを示した。これらの合成方法は製造に適しているため、さまざまな用途に利用できる可能性がある。「薄膜中でも重合できるので、薄膜トランジスターなどの有機エレクトロニクスデバイスの溶液プロセスへの応用が有望視されています」とZheng助手は言う。

研究者らは、単一高分子鎖の基本的特性の解明に重点を置くことを計画しており、現在、その機械的特性を調査している。

References

  1. Dou, L., Zheng, Y., Shen, X., Wu, G., Fields, K., Hsu, W.-C., Zhou, H., Yang, Y. & Wudl, F. Single-crystal linear polymers through visible light–triggered topochemical quantitative polymerization. Science 343, 272–277 (2014). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。