バイオイメージング: サメの歯を鋭く分析

2014年04月25日

サメの歯のエナメル質の超高分解能画像が原子レベルで初めて得られ、フッ素の虫歯予防効果にかかわる重要な知見が明らかになった

サメの歯のエナメル質の最表面層の内部を原子レベルで直接画像化したところ、エナメル質の安定化においてフッ素原子(青色の球)が重要な役割を果たしていることが明らかになった。
サメの歯のエナメル質の最表面層の内部を原子レベルで直接画像化したところ、エナメル質の安定化においてフッ素原子(青色の球)が重要な役割を果たしていることが明らかになった。

© 2014 Chunlin Chen

サメの歯は、獲物に刺さって抜けたり摩耗したりして一生のうちに数千本も生えかわるが、どの歯も虫歯になることはない。近年の研究により、サメの歯の硬いエナメル質の最表面層がフッ化アパタイト(フッ化リン酸カルシウム)からできていることがわかっている。フッ化物は、ほとんどの歯磨き剤に有効成分として含まれており、これまでの研究から、フッ化物イオンの濃度が高いと虫歯になりにくいことがわかっているが、フッ化物の虫歯抑制作用に関する直接的な証拠は得られていなかった。

このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)のChunlin Chen(陳春林)助手らは、国内の共同研究者とともに、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてサメの歯のエナメル質の内部を観察し、その原子構造を画像化することに初めて成功した1。今回の研究結果は、フッ素が歯を強くする働きを理解するうえで、フッ素原子とカルシウム原子の特殊な結合相互作用が重要である可能性を示している。

科学者たちは何十年も前から、TEMを用いて無機材料の原子スケールの構造を観察してきた。しかし、デリケートな有機物と頑丈な無機物から構成される複雑なバイオミネラルであるサメの歯は、TEMの高エネルギー電子ビームにより損傷されやすい。そのため、サメの歯の最表面のエナメル質構造は、マイクロメートルサイズの領域でしか解明されていなかった。

研究チームは、特殊な「収差補正」レンズと低ドーズイメージング機能を持つ走査透過型電子顕微鏡(STEM)を駆使して、この難題を克服した。この手法では、レンズ絞りを小さくして電子ビームを通常より広い領域にわたって分散させることにより、ビーム強度を弱くすることができる。しかし、こうした低ドーズビームを使うとTEM像にノイズが入りやすくなるため、ビーム照射によるダメージと画像の質との最適なバランスを慎重に探らなければならなかった。

研究チームがアオザメ(Isurus oxyrinchus)の歯を調べたところ、TEM像から、エナメル質構造が直径50ナノメートルほどの単結晶フッ化アパタイトのナノロッドの束からできていることがわかった。より詳しく構造を調べると、ナノロッド内では中央のフッ素原子の周りをカルシウム、リン、酸素が六配位で取り囲んで構成されていることが明らかになった(図参照)。この構造から、フッ素原子が無くなると化学構造全体が不安定化すると考えられるため、サメの歯のエナメル質にとってフッ素が極めて重要であることが示唆される。

さらに、フッ化アパタイトの構造についてコンピューターシミュレーションを行ったところ、歯科衛生においてフッ素が果たすユニークな役割が明らかになった。つまり、フッ素とカルシウムの結合がイオン結合性と共有結合性の両方を持つため、一般的なフッ素結合よりも強固であることが確認できた。「エナメル質の内部に入り込んだフッ素原子が直接画像化されたうえ、その結合が意外にも共有結合性とイオン結合性を併せ持つことが明らかになりました。このことは、今後の歯学分野の研究に大きな影響を及ぼすでしょう」とChen助手は言う。

References

  1. Chen, C., Wang, Z., Saito, M., Tohei, T., Takano, Y. & Ikuhara, Y. Fluorine in shark teeth: Its direct atomic-resolution imaging and strengthening function. Angewandte Chemie International Edition 53, 1543–1547 (2014). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。