超硬材料: せん断帯を解像する

2014年01月27日

顕微解析の結果、炭化ホウ素のアモルファスせん断帯の原子構造が明らかになった

炭化ホウ素(赤球:ホウ素、青球:炭素)にせん断圧力(赤色の矢印)がかかると、炭素-ホウ素-炭素からなる3原子鎖を含む面内にアモルファス領域(黄色)が形成される。
炭化ホウ素(赤球:ホウ素、青球:炭素)にせん断圧力(赤色の矢印)がかかると、炭素-ホウ素-炭素からなる3原子鎖を含む面内にアモルファス領域(黄色)が形成される。

参考文献1より許可を得て複製。 © 2013 K. Madhav Reddy et al.

炭化ホウ素(B4C)は、非常に硬いにもかかわらず軽量のセラミック材料である。この特徴を活かして、防弾チョッキの保護部材や戦車の装甲として利用されているほか、多くの工業分野でも応用されている。しかし、炭化ホウ素の結晶はせん断圧力がかかると変形してアモルファス領域を形成し、材料の破壊につながることがある。こうした破壊に至るアモルファス化の正確なメカニズムは、まだよくわかっていない。

このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)のMingwei Chen(陳明偉)教授とMadhav Reddy教育研究支援者は、共同研究者らとともに、炭化ホウ素中にアモルファスせん断領域が形成される際に起こる原子レベルの変形過程を、球面収差補正走査透過電子顕微鏡法(Cs補正STEM)で調べた1。「衝撃性能に優れた新しい炭化ホウ素系材料を設計・開発するためには、こうした変形過程を理解することが重要です」とChen教授は言う。「また、共有結合材料全般の基本的な破壊過程を理解するためにも、今回の研究は非常に意義があります」。

炭化ホウ素の結晶は、12原子からなる20面体と、単一結晶面内に位置する炭素-ホウ素-炭素の3原子鎖から構成されている。これにせん断圧力がかかると、炭素-ホウ素-炭素鎖を含む面内に、幅約2ナノメートルのアモルファス帯が形成される(模式図参照)。

Chen教授らは、軽元素を高い空間分解能で観察できる環状明視野(ABF)-STEM法という手法を用いて、せん断帯の細部を詳しく調べた。その結果、原子スケールの変化を確認することができ、20面体が分解することによってせん断帯が形成されると結論付けるに至った。

炭化ホウ素の結晶領域とアモルファス領域の界面では、変形した20面体が観察された。元の位置から大幅にずれた20面体もあれば、ほとんどずれていない20面体もあり、材料内で結晶からアモルファス構造への変換が進行中であることが明らかになった。アモルファス帯中の20面体は、形状が不規則でランダムに位置し、バルク材料中より個数が少なかった。20面体の個数が減少した理由としては、せん断帯が形成される際に20面体が崩壊した可能性が考えられる。あるいは、傾いた20面体をABF-STEM法で観察するには限界があり、減少したように見えているのかもしれない、とChen教授は語る。

「今回の知見は、化学ドーピングやホウ素/炭素比の変更によって原子鎖を補強することで、よりすぐれた力学特性をもつ炭化ホウ素材料を作製するのに役立つ可能性があります」とChen教授は言う。「現在は、Cs補正STEMを利用して原子鎖の構造を評価・改変することと、ホウ素過剰炭化ホウ素や高ドープ炭化ホウ素を作製することに重点を置いて研究を進めています」。 

References

  1. Madhav Reddy, K., Liu, P., Hirata, A., Fujita, T. & Chen, M. W. Atomic structure of amorphous shear bands in boron carbide. Nature Communications 4, 2483 (2013). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。