酸化物材料: 透明超伝導体

2013年01月28日

リチウムイオン電池の研究から、世界最高の転移温度を示す透明超伝導膜が誕生した

透明超伝導体の概念図。超伝導材料中を光が透過する様子をあらわす。
透明超伝導体の概念図。超伝導材料中を光が透過する様子をあらわす。
 

© 2012 Taro Hitosugi
 

超伝導や磁性といった興味深い物性を示す複合酸化物は、トランジスターや電池をはじめとするさまざまなデバイスの構成要素としてすでに応用されている。こうした材料の高性能化を実現するためには、ストイキオメトリー(化学量論組成)の制御、すなわち、材料を構成する原子数の比が化学式のとおりになるような精緻な合成が必要不可欠だ。このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の一杉太郎准教授、大澤健男助教および共同研究者らは、スピネル型チタン酸リチウム薄膜の成長について研究を行った1。研究チームは薄膜成長を慎重に制御することにより、そのストイキオメトリーを最適化し、透明度の非常に高い超伝導薄膜の作製に成功した。

高品質酸化物薄膜は、パルスレーザー堆積法(PLD)という手法によって作製された。この手法では、原料となる酸化物に高強度レーザーパルスを照射して蒸発させ、飛び出した原子を基板上に精密に堆積させる。一杉准教授らは、リチウムイオン電池用材料として実用化されているLi4Ti5O12に注目し、成膜を試みた。

その結果、PLD法で得られた薄膜のリチウム含有量は、薄膜が成長するときの酸素分圧に強く依存することがわかった。すなわち、酸素分圧が高いときにはLi4Ti5O12薄膜が得られたが、低いときにはリチウム含有量が激減してLiTi2O4薄膜が成長するのである。LiTi2O4はLi4Ti5O12の近縁物質であり、酸化物高温超伝導体の発見以前は、高い超伝導転移温度を示す酸化物として盛んに研究されていた。

そして、このLiTi2O4薄膜は予想もしていなかった性質を示した。室温で3x103S/cmという高い電気伝導度を示しながら、透過率は最高で70%と高い値なのである。したがって、タッチパネルやフラットパネルディスプレイ、太陽電池用透明電極への応用が期待できる。さらに、超伝導転移温度は13Kと、透明超伝導体薄膜としては世界最高の値を有していることが明らかになった。この値は液体ヘリウム温度(約4K)よりも高いため、比較的単純な極低温技術で超伝導状態を発現させることができる。よって、透明超伝導体を用いた応用研究が今後加速すると研究者らは見込んでいる。実際に、この物質は、超伝導キュービットを光子と結合させる量子情報処理への応用も考えられる。

今回、リチウムイオン電池の研究を突き詰めることにより、全く異分野である透明超伝導体が得られた。これは思いがけない結果が、違う領域の研究から突如現れることの好例である。近い将来、室温超伝導が思いもよらない分野から生まれる可能性もあるのでは、と研究者らは期待を膨らませている。

References

  1. Kumatani, A., Ohsawa, T., Shimizu, R., Takagi, Y., Shiraki, S. & Hitosugi, T. Growth processes of lithium titanate thin films deposited by using pulsed laser deposition. Applied Physics Letters 101, 123103 (2012). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。