単一分子分光法: しわしわの金が新しいスタンダードに?

2011年09月26日

しわ加工した薄いナノポーラス金シートが、単一分子の検出に適した表面になる

図1: しわ加工されたラマン活性金表面の走査電子顕微鏡像
図1: しわ加工されたラマン活性金表面の走査電子顕微鏡像
 

© 2011 ACS

厚さわずか100ナノメートルのしわしわに加工したナノポーラス金膜が、超高感度分子検出に利用できることを、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究者らが明らかにした1。表面増強ラマン分光法(SERS)という手法において、このナノポーラス表面を用いると、分析物がたった1個の分子であっても検出できるようになる。

ラマン分光法は、多くの分子が光と相互作用し、特徴的なスペクトルで光を散乱するという性質を利用している。異なる分子は異なる波長の光を散乱するので、ラマン分光法により未知の化学物質を特定することができる。しかし、多くの場合は散乱効果が非常に弱く、散乱された光を検出するのが極めて困難である。

陳教授らが作製したナノポーラス金表面を使うと、ラマン効果が大きく増幅されるため、SERSにより単一分子の存在が検出できるようになる。このような増幅能を持つSERS用基板は過去にも作製されたことがあるが、安定性や再現性が低いなどの短所があった。「私たちは、大型で、安定で、再現性のあるSERS用基板を作製する方法を開発したのです」と、研究チームの張玲(Ling Zhang)ポスドク研究員は言う。

しわの寄った金基板を作製するため、研究者らは、あらかじめひずみを加えたポリマー基板上に、ナノサイズの孔のあいた平坦な金シートを接着した。これを加熱するとポリマーが収縮し、ポリマーを覆っているナノポーラス金層にしわが寄った(図1)。ナノ細孔の大きさを変えることにより、さまざまなしわ構造が得られた。最も良い結果が得られたのは、ナノ細孔の大きさを26ナノメートルにした時であった。

金表面のラマン増強効果のカギとなるのは、3次元のしわ加工を施された表面の形状と光との相互作用である。しわ加工された表面にはナノギャップが形成され、表面の特定の点(ホットスポット)において、表面プラズモン共鳴効果と呼ばれる光による電子の集団振動を可能にする。このプラズモン効果が、近くの表面分子のラマン散乱信号を増幅することは以前から知られていたが、そうしたプラズモン効果を生み出す表面が確実に作製されたのは今回が初めてである。

研究者らは、しわ加工した金表面の「ホットスポット」における局所SERS増強係数が1億以上になりうることを示した。「この値は、最も優れたラマン活性ナノ材料に匹敵し、単一分子の検出を可能にします」と陳教授は言う。

研究チームは、実際の分析化学への応用を目指して、この金表面の性能を向上させるための研究を続けている。「今は、『ホットスポット』の密度と局所増強係数をさらに高めるために、しわ加工表面の化学組成と構造を最適化しているところです」と陳教授は話す。

References

  1. Zhang, L., Lang, X., Hirata, A., & Chen, M. Wrinkled nanoporous gold films with ultrahigh surface-enhanced raman scattering enhancement. ACS Nano 5, 4407–4413 (2011). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。

キーワード