酸化物エレクトロニクス: 有機物との出会い

2010年03月29日

酸化物界面とポリマーゲートを利用して、高品質なトランジスターを実現

図1: トランジスターの上面図(左)、およびZnOとMgZnOの間の二次元電子ガス界面を示す模式図(右)。
図1: トランジスターの上面図(左)、およびZnOとMgZnOの間の二次元電子ガス界面を示す模式図(右)。

エレクトロニクスの基幹材料として、シリコンなど共有結合で結晶を構成する半導体が数十年にわたり利用されているが、より高い性能や付加価値を生み出すべく、新材料の研究開発は勢いづいている。特に有望視されているのは、LaAlO3/SrTiO3やMgxZn1–xO/ZnOなどのイオン結合を持つ絶縁性酸化物の界面に形成される「二次元電子ガス」だ。ここでは電子が量子力学的に閉じ込められた二次元面内を自由に動くため、電気伝導性が高いという特長がある。

このような界面をトランジスターなどの電子デバイスに利用するには、ゲート電極と界面の間に電圧をかけてキャリア濃度を調節しなければならないが、これまでは技術的な課題があり実現が難しかった。今回、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の川崎雅司教授らは、ポリマーゲートを用いて、活性層となるMgxZn1–xO/ZnO界面の電気伝導を制御するトランジスターを作製し、新たな材料を用いたデバイス開発の可能性を切り開いた1

半導体上に金属ゲートを蒸着すると、2つの材料の間に仕事関数(電子が表面から飛び出すのに必要なエネルギー)の差があるため、ショットキー接合という整流性をもつ接合が形成される。この接合を用いると、ゲートからのリーク電流を最小限に抑えて、半導体中のキャリア濃度を調節できる。 しかし、川崎教授は「酸化亜鉛(ZnO)と貴金属のショットキー接合には十分な再現性がなく、デバイス特性も優れているとはいえません。私たちは、金属が何らかの形でZnO中の酸素と反応して、欠陥が生じているのではないかと推測しています」と説明する。界面にわずかでも欠陥があると、ゲートから電流がリークする経路が形成され、二次元電子ガスの特性が大きく損なわれるからである。

そこで、川崎教授らが着目したのが導電性ポリマーだ。「ポリマーは通常、酸化に対して非常に安定です。ポリマー中の原子は化学結合で既に飽和されているからです」と同教授は話す。研究チームは、有機ディスプレイに広く使用されている「PEDOT:PSS」という市販されている導電性ポリマーのゲートと高移動度MgxZn1–xO/ZnO界面を用いて、化学結合を作らないショットキー接合でトランジスターを作製した(図1)。

二次元電子ガスでは、磁場を印加すると量子干渉効果が生じ、量子ホール効果という抵抗の振動や階段状の変化が誘起される。これを観測できたことはデバイスの品質が高いことを意味している。さらに、その磁気抵抗は、ゲート電圧の印加によって明瞭に変化しており、キャリア濃度を外部から調節できたことを実証している。

今回の結果は、次世代ディスプレイなどの応用にとって非常に重要な意味を持っている。「この界面は、将来の透明回路の重要な構成要素のひとつになりうるものです。作製方法は極めてシンプルで、材料も安価です」と川崎教授はいう。ほかの酸化物半導体にも同じ手法を使える可能性があり、研究チームは既に、同じポリマーをSrTiO3やTiO2などの酸化物に対してもゲートとして使用できるかどうかを探っている。

References

  1. Nakano, M., Tsukazaki, A., Ohtomo, A., Ueno, K., Akasaka, S., Yuji, H., Nakahara, K., Fukumura, T. & Kawasaki, M. Electric-field control of two-dimensional electrons in polymer-gated–oxide semiconductor heterostructures. Advanced Materials Published online: 24 Nov 2009 | doi: 10.1002/adma.200902162 | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。